以前の記事
2017年 03月 2017年 02月 2016年 11月 2016年 09月 2016年 02月 2013年 10月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 09月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
最初に毎日新聞に出た記事を読んで書いた前項、前前項のあとで判明したこともあはせてもう一度書いておきたい。
住大夫師のお弟子さんの文字久大夫さまから、以下のやうな住大夫師のお言葉が私に伝へられた。 文字久大夫さまに感謝するとともに、私にまでご伝言をしてくださつた住大夫師に心から感謝を申し上げたい。 住大夫師のお言葉は、事実を明らかにするためにここで公開しても差し支へないと思ふ。 師はかういふお言葉を下さつた。 「橋下さんから文楽協会に会わせてくれと言うてきはったのを、 協会が勝手に断ってましたんや。 私は前から、橋下さんに会いたい言うてまっせ。」 要するに、間に立つた文楽協会事務局が「勝手に」判断して、住大夫師に伝へなかつたことをそもそもの原因として、今回の非常事態に至つたといふことである。それは産経の文楽記者、亀岡さんも昨日の記事でお書きになつてゐたことでもある。文楽協会事務局の判断の甘さは十分に責められてよい。 ただ、それでも私は橋下市長の判断は間違つてゐると思ふ。 要は事務方のミスである。それをあたかも住大夫師をはじめとする伎藝員が高飛車に断つてきたからと「勝手に」判断して、市当局が二十五パーセントカット(これも私には納得しがたいが、それはあへていまは措くとして)方針を出してきてゐるのに、執行はさせないといふのは、市の行政を司る者として粗忽、傲慢の譏りをまぬかれるものではない。全額カットは死活問題である。ここに「死活」といふとき、それは伎藝員の生活を云ふと同時に、文楽といふ、これもまた繰り返すが、日本で能に次いでユネスコから世界無形文化遺産に指定された日本の誇る、三百年続く古典藝能そのものの存立を脅かすといふ意味でもある。 さういふ重い判断を、「勝手に」文楽の人々が「特権意識にまみれてゐる」と勘違ひし、冷静に判断することも、その誤解に気がつくこともせず、いきなり打ち出す姿勢は、為政者として批判されてしかるべきだと私は考へる。忌憚なく云へば、「折角自分が会つてやらうといふのに、それを断るとは何たる生意気、大胆不敵。それなら全額カットしてやる」といふことではないのか。あまりに幼稚な反応で、かう書いてゐても私の怒りは収まるどころか、ますます高まるばかりである。 市長に限らず、為政者はある重大な決断をするとき、材料をとことん集めて、それらを比較検討し、事実を見極め、賛否両論を勘案し、専門家(今回で云へばドナルド・キーンさんのやうな方。橋下市政をバックアップする人々ではない)の意見を聞き、かつその決定がどういふ結果を招来するかをなるべく正確にはかつて、事を進める必要がある。 今回、橋下市長がそれをしたとは思はれない。あまりに性急にして愚かな判断といふほかない。 従つて、前項、前前項の記事と趣旨は変はらず、私はここでも、橋下市長の「全額カット」の方針に強く異議を唱へたい。一日も早く、伎藝員の方が、安心して修行、稽古に戻ることができるのを首を長くして待ち望んでゐる。 亀岡さんの記事で知つたのだが、伎藝員になつて十年、つまり三十歳前後になつても、基本給は十万円に届かないといふ。特権とか恩恵といふ言葉とはほど遠い現実がある。「全額カット」は大げさではなく、彼らの首を絞める蛮行と言つていい。三千九百万円がどれだけ大きな金額なのかよく考へてみて頂ければと思ふ。八十二人の伎藝員。大道具、人形、鬘、人形の衣裳、三味線の修理、公演時の照明、冷暖房費、清掃代、ポスターやちらしの印刷代、巡業の宿泊代、交通費、その他私などにはわからないあまたの出費。しかも歌舞伎と違ひ、劇場は小さい。チケット代だけですべてまかなへる筈がないのだ。 稽古や後進の指導はすべて無料奉仕である。日本の伝統藝能を守るために、それが好きで好きでたまらないがゆゑに、世間的な物質的安寧を諦めてまで修行に打ち込む人々がこの世界にゐる。その方々の息の根を止めることになりかねない橋下市長の方針を、これをお読みくださつてゐるあなたは当然だと思はれるだらうか。 かういふ事態になつたから、もう少し詳しい話もしておかう。住大夫師のもとに最近入門した大夫がゐる。大学を出て、どうしてもこの世界に入りたくて、無理矢理と云へば語弊があるかもしれないが、住大夫師のもとに入門した若者である。彼が一人前になるにはまだまだこれから何十年にもわたる修行が必要だらう。それならどうして住大夫師はその若者を弟子になさつたのか。それは青年の熱意もさることながら、文楽といふ貴重な古典藝能の火を少しでも後世に伝へて行かなければと思はれたからでもあると私は推測してゐる。いくら住大夫師でも、この先何十年も現役を続けることはできないと思ふ。残念だがさう思ふ。それならば、何とかして後世にご自分の藝(それはまた師が先人から引き継いで、それを高めてきた藝である)を伝へて行かなければとお思ひになつたのだ。そのご心中を思ふと、かう書いてゐる今でもあついものがこみ上げる。もし全額カットなどといふ暴挙がまかりとほれば、さういふ若者は後を絶ち、やがては文楽の火は消えるだらう。つまり、これも繰り返すが、橋下市長が自分のメンツのために云ひだした全額カットとは、三百年続く日本の古典藝能を殺すといふことにほかならない。それを私たちは許してはならない。他のことは知らず、この件に関する橋下市長の判断は横暴、傲岸、無知だと云ひ続けなくてはならない。文楽を殺してはならないのだ。 なほ、最後につけ加へれば、橋下市長に追随して、詳しい事情を調べもせず、大阪府の補助金も止めるなどと云ひだした松井府知事の責任は重い。政治家といふより、為政者として失格である。まづ、何よりその追随姿勢。まるで傀儡のごとく、自分で調べもせず、考へもせず、右に倣へで、ことの重大さを理解してゐない。かういふ人間は本来、知事になどなるべきではなかつた。見てゐるこちらが恥づかしくなる。 住大夫師、並びに伎藝員の方々の絶望、お怒りにはるかに思ひを寄せつつ……。 ■
[PR]
by romitak
| 2012-07-01 16:53
|
Comments(2)
|
ファン申請 |
||
外部サイトRSS追加 |
||