むかし、ワインをフランスで実地に教へてくださつた方がゐて(それはいいワインを飲ませてくださつたし、また、ワインの飲み方もご教示くださつた)、その影響でフランスにゆくたびに銘醸ワインを買つて帰つたものだつた。なにしろ、超過分の税金がどんなに高いワインでも、一本百円だつたのだ。ところが生来の甲斐性なしで、「勿体ない」が先に出て、折角のワインを飲むことができない。一々ここに銘柄を書かないけれど、ワイン通の方から見てもおどろくくらゐのかなりの銘酒がそろつた、そのために、ワイン用冷蔵庫を二度買ひかへたくらゐである。
ときに、私は四月から長期間フランスへゆく。その間、家にあるワインは呑めない。そこで最近一本づつ空けてゐるのだが、けふはCheval Blancの1976年を呑んだ。もう駄目かと思つてゐたのだが、意外に状態がいい。三十六年といふ歳月がここに凝縮してゐる感覚を味はつた。されど、まだまだ私のワイン用冷蔵庫にはフランスで買つた銘醸ワインがある。これを出発までに呑むことはできないだらう。何のために買つたのか、みづからの判断の甘さを悔いる日々である。