パソコンで字を打つてゐても、きちんとした方々は間違ひがないだらうが、私ごとき迂闊な者は打ち間違へてもそのまま気づかず過すといふことがある。「槻の木」といふ昔から知られた雑誌に、先般紹介した浅見淵『燈火頬杖』について編者の藤田氏がお書きだといふので、その頁を送つてくださつた方がある。その方に深甚の感謝を捧げつつ、藤田氏の文章を拝読した。どのやうにしてあの本ができたかを詳しく語つたその文章はそれだけでも味のある随筆になつてゐたが、最後の部分で私はみづからのぼんやり加減を思ひ知らされた。そこにはかう書いてあつたのだ。
「燈火頬杖」と書くと、幾たびか私は「燈下頬杖」と誤って書いた。この「秋半日」の書かれた時代、都築省吾はこの「槻の木」に「燈下頬杖」を連載していた。
藤田氏はむろん、都築省吾「燈下頬杖」が無意識のうちに脳裡をよぎつてそのやうについ書き間違へることもあつたのだらうが、私の場合「燈下」と書いたのはひとへに私のミスである。わが身の不注意を恥ぢるとともに、謹んで訂正しておきたい。