以前の記事
2017年 03月 2017年 02月 2016年 11月 2016年 09月 2016年 02月 2013年 10月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 09月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
こんなことがあるのだらうか。けふはでかけてゐたので夜中近くになつて戻り、郵便受けを開くと、早川書房からの小包が届いてゐた。まさかと思ひつつ、急ぎ家に入つて封を切ると、「チャンドラー短篇全集2」だつた。
目次を見ると、三川基好訳「ヌーン街で拾ったもの」が収録されてゐた。しかも、本の最初には「三川基好」といふ署名入りの献呈カードがはさまつてゐた。 三川から来た最後のメールの一部を紹介する。九月十一日附。「チャンドラー短篇全集1」のお礼を書いたときだ。 「そうだね、チャンドラーは2篇訳したのだけれど、最初のは病気だとわかって入 院する前、もうひとつは退院後の最初の仕事だった。アメリカのミステリーを多 く訳しているものにとってはチャンドラーを訳させてもらうというのは格別のも のがありました。 なんとかやってます。今年はいつまでも暑くて」 ここに書かれてゐる「退院後の最初の仕事」がまさにこれである。いつも三川から本をもらふとメールでお礼を書いてゐた。今回のみ書かないのはかへつてつらいゆゑに、をかしな話かもしれないが、今はこの世にゐない三川にむかつて礼状をしたためることにしたい。 三川基好さま これが最後のお礼になるのだと思ふととてもつらい。 しかも、すでに君はこの世にゐないのだからなほさらだ。 それでも君の魂魄がこの世にまだとどまつてゐるかもしれないと思ひつつ、最後のお礼を書く。 まさか君の他界後に本をもらふとは思はなかつた。 こんなことつてありえないよ。寂しくてならない。 君はどこまですごくて、どこまで恰好がいいのだ。何もそんなに恰好をつけなくても、だらしなくてもいいから、もう少しこの地上にとどまつてはゐられなかつたものか。癌がにくい。自分だつて寄生した肉体が滅びれば滅びざるを得ないのに、どうして寄生した肉体をかくまで早く殺すのかと思ふ。 三川、君が在外研究の途中でパリにきたとき、はじめて××さんのことを聞いた。 あんなに明るく、開放された君の笑顔は久しぶりだつたよ。 最後の十年、君は比類ない翻訳者として大車輪の活躍をした。 こんな翻訳者はあとにも先にもない。それは確言できる。 ああ、三川、君がこのメールを見られないのは本当に残念で、何とも言ひやうがない。 献呈の字を書いてくださつたのは××さんだらうか。 それも君が指示してくれたといふことなのか。今までカードだけで署名はしてゐなかつたから、これは君の、ぼくらへの最後の挨拶だつたのか。 そんなこと考へなくてもよかつたのに。ぼくらは君の仕事が読めればそれでよかつたのに。 ぼくもいつか死ぬけれど、とても君のやうなことはできない。 大学以来、37年にわたる附きあひだつた。 君と出会へたこと。それはぼくの宝だ。1970年の早稲田が蘇るやうだよ。君とはすぐに仲良くなつたのはどうしてだつたのだらう。いつの間にか、ずつと前から友達だつたやうな気がする。 君の冥福を心から祈るとともに、××さんの悲しみがすこしでもやはらぐことを切に、切に祈る。 三川、これが最後のメールだ。さやうなら。君がゐてくれてほんたうによかつた。ありがたう。心から冥福を祈る。 君にこれからの仕事を見せられないことをぼくは生涯悔やむだらう。
by romitak
| 2007-10-14 02:13
|
ファン申請 |
||